1、港町の倉庫で見つけたもの



 1958年スコットランドでの話─  スコットランドの首都エディンバラの北、リースという港町には、 たくさんのウイスキー貯蔵庫が並んでおり時として、思いも寄らぬ宝物に出会うことがある。
 この話に登場する主人公のひとり、ドナルド・スミス氏こそ、その人物だった。 エディンバラに住むスミス氏は、その日、ひとつの倉庫の前で足を止め、中を覗いてみた。そこにはウイスキーの樽が並んでいた。
 ひとつひとつ樽を調べていくうちに、スミス氏の顔には、みるみる興奮と歓喜の表情が広がっていった。「これだ見つけたぞ!」
 スミス氏が見つけた宝物─それは樽熟成30年以上のシングルモルトとシングルグレーンであった。
 スミス氏が大喜びしたのも無理はない。彼は無類の酒好きであり、スコッチの専門家だったのだから。

 2、集まった6人の仲間たち

 この発見のことを知らせると、さっそく友人たちがやって来た。会社の同僚であるマッキントッシュ氏、公認会計士のペーターソン氏、 保険代理業を営むドナルド氏、建築業者のモンテース氏、歯科医のミドルトン氏の5人である。
彼らとは、古くからゴルフ、鱒釣り、雷鳥狩り等に出かける間柄だが、一番の共通点は、スコッチウイスキーが何よりも大好きなことだった。
彼らは以前から、ある壮大な夢を抱いていた。─自分たちのスコッチつくり、この六人だけが楽しめる、そんなスコッチがあったら・・・―
 そこへスミス氏の発見である。─見つかったのは、シングルモルトが18種類、シングルグレーンが二種類。これらをブレンドすれば、まったく個性的なウイ  スキーが楽しめる。しかもほとんどが30年以上も熟成されているから、きっと素晴らしいスコッチが・・・・・・。
 6人の夢は、もはや目前の現実となり、スミス氏が見つけたモルトとグレーンの樽を、その場でひとつ残らず 買い受けたのである。

 3、再現されたクラシック・ブレンド

 いよいよブレンドである。
 彼らは親交のあったチャールズ・クレイグ氏に夢を託した。彼はスコッチウイスキー事業に三十五年以上も携わった重鎮で、一九九一年までインヴァーゴードン・ディスティラーズの会長も務めた人物。
6人がこだわったもの─それは百年以上も昔、地元の人々が頑固にこだわり続けた「クラシック・ブレンド」。
 伝統的にして古典的、贅を尽くしたブレンドと言われるこの「クラシック・ブレ ンド」は、スコッチウイスキーの香味と楽しさを極限まで追い求めた夢のブレンドとして語り継がれてきた。
 そしてこの究極へのこだわりは、遂に実現することになった。
 ─モルト65パーセント―
 ―グレーン35パーセント─
 今日のブレンドの常識を覆した、この贅沢なモルトの比率こそ、6人が追い求めた夢のスコッチであり、それはまさしく、クラシック・ブレンドの再現であった。

 4、その名はシンジゲート

 「遂に自分たちだけのスコッチができたんだ!」
彼らは口々にそう叫び、抱き合い、祝福し合った。
再現されたクラシック・ブレンドは、初めて目にする高貴なマジックであり、それぞれのシングルモルトとシングルグレーンが見事に調和して円熟の極みに達した素晴らしいものだった。
 「俺たちは仲間(シンジゲート)、このスコッチの名前はシンジゲートだ!」
 「1958年に6人の仲間がつくったスコッチ、シンジゲート58/6はどうだ!」
 こうして、六人の仲間のスコッチ「シンジゲート58/6」は誕生したのである。
仲間の一人が一八世紀風バーガンディボトルを探し、門外不出を決め、ただひたすら六人だけがひそかに愉しむ「奴らのスコッチ」となっていった。

 5、そして40年が過ぎて

 六人の仲間とクラシック・ブレンドの歳月は、ひそかに過ぎていく。
 しかし噂は、いつしか広まるもの。秘密にしていた神秘的なマジック・ブレンドは、地元のスコッチ通の間でも垂延の的となってきた。
 ここに、ひとりの重要な人物が登場する。ウォーレス・ミルロイ氏。スコットランドで生まれ、シングルモルトの世界的権威である彼は、驚くべき博識をもった鑑定家として知られている。
 そのミルロイ氏が一本だけ選び抜いたブレンデット・ウイスキーこそ「シンジゲート58/6」である。
 日本へは一九九一年、かねてから親交があったオザキ・トレーディングに紹介したのがはじまり。
 ちなみにチャールズ・クレイグ氏による秘伝のレシピと、1958年に見つけた熟成モルトの大半は、今日まで粛々と受け継がれており、正統派のスコッチ愛好家から際立った評価を受けている。
 6人の仲間たちの夢は、長い時間と遠い海をこえ、いま、あなたの、そのグラスの中に。
 "Tak aff your dram"(乾杯)!